猫の肥満を考える④ 肥満による麻酔のリスク

ご紹介してきたように、肥満は糖尿病や肝リピドーシスといった病気のリスクを高めるだけでなく、病気になった時の麻酔や手術のリスクを高めてしまいます。今回は、なぜ肥満が麻酔の危険性を高めるのか、皆さんに納得してもらえるよう解説します。この記事を見てもらえば、いざ麻酔が必要というときのためにダイエットが必要だと気付いてもらえると思いますよ。

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麻酔リスク① 胸部が脂肪で圧迫されることによる低換気

全身麻酔をかけた時にはいくつも注意しなければならないことがありますが、その1つが「換気」です。「部屋の換気」というと部屋の中の空気を入れ替えることですが、「動物の換気」は動物の肺の中の空気の入れ替えです。動物の換気は酸素を肺から全身に取り入れ、二酸化炭素を肺から外に出すという働きにです。つまり、換気が低下してしまうと、体に酸素を取り入れることができず、低酸素状態になり最悪命に係わる状態になってしまうんです。

換気で大切なのがしっかり肺が膨らむことです。肺はろっ骨と横隔膜で囲まれた「胸郭」の中にありますので、胸郭が狭くなると肺がしっかり膨らまないということになります。

胸の中にほとんど脂肪は付きませんが、お腹の中には脂肪がたくさんつきます。全身麻酔をかけると、筋肉が弛緩するため、腹腔内脂肪によって横隔膜が圧迫されるので、胸郭が狭くなり肺のふくらみが少なくなってしまいます。

つまり、全身麻酔をかけた肥満猫では肺が正常に膨らみにくくなり、低酸素のリスクが増えるのです。特に心機能の低下した高齢猫では低酸素に対して非常に弱くなりますので、麻酔のリスクは非常に高くなります。


麻酔リスク② 気道が圧迫されることによる麻酔覚醒時の窒息の危険

肥満の猫では、お腹の中だけでなく、喉にも脂肪が付きます。人の「睡眠時無呼吸症候群」でも、肥満が気道閉塞のリスクになると言われていますが、猫でも肥満によって喉に脂肪がつくと気道が狭くなってしまいます。

気道が細くなってしまっていても、気管チューブを気管に入れている麻酔中は問題になることは少ないです。ただし、麻酔を切って目を覚ます段階で興奮してしまうと、呼吸困難に陥ってしまうことが時々あります。ひどい場合はそれで窒息をしてしまう可能性もゼロではありません。

特に、もともと呼吸機能が弱い鼻ぺちゃのスコティッシュフォールドやシャム猫では肥満による気道の圧迫の影響が強く出てしまいますので、より注意が必要になります。


麻酔リスク③ 体脂肪への麻酔の分布による覚醒遅延の危険性

肥満による麻酔のリスクは呼吸の問題だけではありません。

全身麻酔薬は体全体に広がりますので、体脂肪へも分布します。全身麻酔は、全身を回り、肺から空気中へ出て行ったり、肝臓や腎臓で代謝されて身体の外に排泄されます。体脂肪には血管の分布が非常に少ないため、一度脂肪に入った全身麻酔薬は体の外に排泄されにくくなってしまいます。

つまり、肥満で体脂肪が多い猫では、脂肪にたまる全身麻酔薬が多くなるため、麻酔を切ってからも麻酔の醒めが非常に悪くなってしまいます。麻酔が必要以上に長くなってしまうと、低血圧から心臓や腎臓への負担が強くなったり、呼吸機能が戻ってくるのも遅くなってしまい、麻酔による体の負担が強く出てしまうことも多いです。
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まとめ

肥満の猫に麻酔をかける時は、上に紹介したようなリスクがあり、我々獣医師もとても気を使います。どれだけ注意をしていても全身麻酔を100%安全にできる方法はなく、麻酔事故のリスクは0%にはできません。

健康で標準体重の猫できわめてリスクが低い麻酔だとしても、肥満になるとそのリスクは高くなってしまいます。猫の寿命が伸びるとともに、腫瘍など手術が必要な病気も増えています。いざ手術が必要になった時のためにも、肥満猫の飼主さんはダイエットを考えてみてくださいね。次回は肥満が与える手術自体のリスクについて解説します。


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